はじめに

1997年ノーベル物理学賞は、米国スタンフォード大学教授 Steven Chu 博士、フランスのコレージュ・ド・フランスおよび高等師範学校(Ecole Normale Superieure) 教授 Claude Cohen-Tannoudji 博士、および米国国立標準・技術研究所 (NIST) の William Phillips 博士に授与された。受賞の対象となったのは“レーザー光による原子の冷却およびトラップ法の開発”である。

Chu 教授は1948年米国セントルイスで生まれ、1976年にカリフォルニア大学バークレー校で学位を得た。Cohen-Tannoudji 教授は 1933年アルジェリアのコンスタンチーヌで生まれ、1962年にパリの高等師範学校で学位を得た。また Phillips 博士は1948年に米国ペンシルベニヤ州のウィルクスバレーで生まれ、1976年にマサチューセッツ工科大学で学位を得た。この3人の受賞者はともに親日家でたびたび来日し、筆者を含めて日本における原子物理学、レーザー分光学などにたずさわる研究者との交流も盛んに行ってきており、3人を知る人たちは今回の受賞を大変喜んでいる。

Chu 教授は非常に積極的かつ、アイデアが豊富な実験家で、実現できないものはないという自信に溢れている人である。Cohen−Tannoudji 教授とは、筆者の一人が、彼の恩師であるA. Kastler 教授(1966年ノーべル物理学賞受賞)の招待で1年間パリで過ごしたこともあり、親しくさせて頂いてきた。彼は非常に温厚で優しく、また謙虚な人である。彼のコレージュ・ド・フランスでの講義は毎年新しいオリジナルな内容で、パリおよび近郊の研究者が多数出席する名講義である。Phillips 博士はいつも明るく、にこやかに話す人でどんな物理にも興味をもち議論をする好人物である。頭の回転が速く、本質が何であるかを見抜くことに長けている人である。

以下に3人の業績であるレーザー冷却・トラップ法の開発研究のあらましを説明する。詳細に関しては末尾の参考文献を参照していただきたい。

 

光子と原子の相互作用

レーザー冷却・トラップ法とは、簡単にいうと、高温の気体原子にレーザー光を照射して減速させ、それを電磁場中に閉じ込めるというものである。気体原子を減速させるというのは、冷却を意味する。

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