薄膜とは


私達の研究室では新物質の開発、結晶成長という固体化学的な興味から無機化合物、特に遷移金属酸化物の薄膜研究を進めています。


通常、酸化物を中心とした無機化合物の合成は原料となる化合物を秤量し、乳鉢で混合、電気炉で加熱して反応させるという方法が採られます。これは固相反応法と呼ばれますが、何種類かの原子をある比率、温度で平衡状態に置いたとき、エネルギー的に安定な配置に落ち着く(つまり結晶ができる)という原理、つまり熱力学に支配された合成方法です。そのため、これこれの原子がこういう配置で結晶を作ったら面白い物性が発現するのではないかと思っても、なかなか思い通りのものはできません。


高圧合成法も固相反応法ですが、圧力というパラメータを一つ増やすことで、常圧で安定な構造よりも密度の高い構造などを合成できるため、作製可能な物質の範囲は広がります。

一方、薄膜法ではエピタキシャル成長という手法を用いることで、バルク合成での熱力学の束縛から解放された結晶成長が可能になることがあります。


薄膜法は結晶成長方法の分類では気相成長法というカテゴリーに属します。物質を構成する元素を気体状にして基板上に降り注ぎます。基板に到達した原子は基板の表面にある原子と相互作用しながら、基板上で移動し(マイグレーション)、安定な位置に落ち着き結晶化します。ここで、蒸着原子と基板原子(基板格子)との相互作用があるために、蒸着原子だけが存在するときとは異なる結晶が形成される場合があります。


エピタキシャル成長という用語は一般的には基板の結晶方位と相関を持って薄膜結晶が成長する結晶成長様式のことですが、基板結晶を適切に選ぶことで、本来、その系には存在しないような結晶構造を形成することも可能になります。