量子ホール効果

 半導体の異種接合界面などに形成される2次元電子系を低温・強磁場下におくと,ホール抵抗にプラトー(plateau) と呼ばれる一定の値をとる領域が出現し、それと同時に磁気抵抗がゼロになる現象が起こります。これを量子ホール効果といいます。驚くべきことに、このプラトーでのホール抵抗値はPlank定数h と素電荷eのみを用いてh/νe2と表され,試料の大きさや性質に依らず一定です。νは初め整数のものが発見されましたが(整数量子ホール効果)、試料の質の向上により分数の値も取るものが発見されました(分数量子ホール効果)(図1)。

 
図1 量子ホール効果試料のホール抵抗及び磁気抵抗の磁場依存性

 整数量子Hall 効果は概ね一体問題として説明できます。2次元電子系に垂直に強い磁場をかけると,電子はサイクロトロン運動を行い,状態密度は量子化された線スペクトルになります。これをLandau量子化と呼び、量子化されたエネルギー準位はLandau 準位と呼ばれます。量子Hall状態では、この縮退したLandau準位間にFermi準位が存在し、その下のLandau準位を電子が完全に占めた状態になります。電子が何番目のLandau準位まで占めているかをLandau 準位占有率νで表します。このような状態から励起するには,その上のLandau準位までのエネルギーギャップ分のエネルギーを得なければなりません。このため、十分に低温で電流が小さい場合には電子が散逸することなく流れ、磁気抵抗はほぼゼロになります。プラトーの出現を説明するには、不純物の効果を考えなければなりません。実際の試料には不純物が存在し、この不純物が生み出す乱雑なポテンシャルによってLandau準位の縮退が解けます。これによって局在したエネルギー準位が生じ、Landau準位はある程度エネルギー幅を持った準位になります。占有率を動かした時、局在したエネルギー準位に束縛されて電気伝導に寄与しなくなる電子が現れるので,ホール抵抗にプラトーが出現します(図2)。


 図2 2 次元系の状態密度(a) とLandau 量子化(b),不純物の効果を含んだ系における局在準位の様子(c).

 しかしLandau準位の分数倍に電子が詰まった時にプラトーが出現する分数量子ホール効果は、以上の説明では理解できません。分数量子ホール効果を理解するには,電子間クーロン 相互作用を取り入れた多体効果を考慮する必要があります。ν=1/mの分数量子ホール効果は、電子1個にm本の磁束量子を貼り付けた状態として理解されます。

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