代表的論文と解説

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代表的論文

"Phase Diagram of Interacting Composite Fermions in the Bilayer ν=2/3 Quantum Hall Effect";
N. Kumada, D. Terasawa, Y. Shimoda, H. Azuhata, A. Sawada, Z. F. Ezawa, K. Muraki, T. Saku and Y. Hirayama
Phys. Rev. Lett. 89, 116802 (2002).
2層系ν=2/3量子ホール状態におけるスピンと擬スピン自由度の存在する 複合フェルミオンの相図を調べた。 活性化エネルギーの測定によって3種類の量子ホール状態の存在と、 磁気抵抗測定において見られる2種類のヒステリシスの存在を明らかにした。 得られた相図は、定性的に相互作用のない複合フェルミオンモデルで理解できるが、 トンネルギャップの繰り込みや高電子密度における非量子ホール状態の存在は、 相互作用のない複合フェルミオンモデルでは理解できない。 このことは、複合フェルミオン間の相互作用の存在を示している。

"Doubly Enhanced Skyrmions in ν=2 Bilayer Quantum Hall States";
N. Kumada, A. Sawada, Z. F. Ezawa, S. Nagahama, H. Azuhata, K. Muraki, T. Saku and Y. Hirayama
J. Phys. Soc. Jpn. 69 Letters, 3178-3181 (2000).
1層および2層2次元電子系試料を用いて1層系ν=1、2層系ν=2における励起エネルギーの比較を行った。 その結果、2層間のトンネリング相互作用が励起に大きな影響を及ぼしていることが分かった。 トンネリング相互作用が大きい場合は2層系では1層系の倍のスピン集団反転(スカーミオン)が観測された。 また、スカーミオン励起のエネルギーはある特定のスピン反転数の時、極小となることを示唆した。

"Interlayer Coherence in ν=1 and ν=2 Bilayer Quantum Hall States.";
A. Sawada, Z.F. Ezawa, H. Ohno, Y. Horikoshi, A. Urayama, Y. Ohno, S. Kishimoto, F. Matsukura and N. Kumada,
Phys. Rev. B 59, 14888-14891 (1999).
2層2次元電子系試料を磁場中で回転し、 ν=1および2量子ホール状態の安定性の横磁場依存性を測定した。 その安定性の振る舞いからν=1および低電子密度のν=2量子ホール状態に マクロ量子コヒーレンスが発生していると考えられることを発表した。

"Phase Transition in ν=2 Bilayer Quantum Hall State." ;
A. Sawada, Z.F. Ezawa, H. Ohno, Y. Horikoshi, Y. Ohno, S. Kishimoto, F. Matsukura, M. Yasumoto and A. Urayama,
Phys. Rev. Lett. 80, 4534-4537 (1998).
2層2次元電子系試料の2層の電子密度差を変えて量子ホール状態の安定性を測定した。 その結果、総電子密度が低下すると、ν=2状態はあらゆる電子密度差で安定な、 マクロ量子コヒーレンスが発生してもよい状態へ相転移することを発表した。

"Anomalous Stability of ν=1 Bilayer Quantum Hall State." ;
A. Sawada, Z.F. Ezawa, H. Ohno, Y. Horikoshi, O. Sugie, S. Kishimoto, F. Matsukura, Y. Ohno and M. Yasumoto,
Solid State Commun. 103 447-450 (1997).
2層2次元電子系試料の2層の電子密度差を変えて量子ホール状態の安定性を測定した。その結果、ν=1状態はあらゆる電子密度差で安定な マクロ量子コヒーレンスが発生してもよい状態あることを発表した。

"Critical supersaturation of 3He-4He liquid mixtures: decay of metastable states at ultralow temperatures." ;
T. Satoh, M. Morishita, M. Ogata, S. Katoh,
Phys. Rev. Lett. 69, 335-338, (1992).
3He-4He混合液の 過飽和3He希薄相からの相分離現象を、 初めて0.4mkから130mKに至る広い温度領域で系統的に行った。 その結果、臨界過飽和度は、10mK以上では温度とともに増加するが、 10mK以下ではほとんど温度依存性がないことを発表した。

 

解説

"2層量子ホール系における層間コヒーレント現象";
江澤 潤一、澤田 安樹
日本物理学会誌 56, 334-338 (2001).
量子ホール効果の新しい側面−磁場ではなく交換クーロン相互用によって量子ホール状態のスピンは揃う−が関心を集めている。これはスピンSU(2)対称性の自発的破れと巨視的コヒーレンスの発生を意味する。2層量子ホール系では更に興味深いコヒーレント現象が実現する。層間の交換クーロン相互作用により層間に巨視的コヒーレンスが発生し、超伝導ジョセフソン効果と類似のトンネル現象が示唆される。

"2層系量子ホール効果−−−どのような現象が期待されるか?";
澤田 安樹、江澤 潤一、大野 英男
固体物理 32, 941-951 (1997).
量子ホール状態を複合ボソンの凝縮状態と考えられることから、 2層2次元電子系の量子ホール状態には、 マクロ量子コヒーレンスが発生する可能性があることを解説した。

"量子核形成−−−超低温における多粒子系準安定状態の崩壊";
佐藤 武郎、高木 伸
日本物理学会誌 50, 184-192 (1995).
量子核形成は、量子トンネル効果により無から有が生ずる現象であり、 低温における一次相転移を説明する普遍的機構として注目されている。 物性物理のみならず、素粒子物理、宇宙物理も含めて様々な分野で、 量子核形成の概念に基づく理論的考察が展開されている。 しかし、量子核形成を疑いの余地なく実証した例は未だ存在しない。 「多自由度系における量子トンネル現象」と呼ばれる一般的枠組の中における 量子核形成独自の特徴に焦点を絞り、 量子核形成を実証する目的で行われてきている実験と、 それに対応する理論の現状について解説する。