研究概要


 低温物理学研究室のテーマは、 超低温領域における基礎物理学の研究です。 研究室のシンボルマーク「超」は超低温を意味します。 私たちが標榜する超低温とは、現象の物理的性質を特徴づける特性温度に比べ、 充分低い温度領域のことであると同時に、 絶対零度に限りなく近い温度域のことでもあります。 この様な超低温では、 凝縮系内の微小な相互作用によって予想外の現象が現れます。 私たちの研究室では、 希釈冷凍機や核断熱消磁装置などの特殊な冷却装置で到達できる 1K以下10μK近傍までの広範囲の超低温域において 凝縮状態にある物質の特異な物理現象について調べ、 基礎物理学を更に発展させる事を目的としております。 現在私たちが取り組んでいる2次元電子系は、 超低温における新しい領域を開拓・発展させる必要のある研究対象です。

2層系量子ホール効果とマクロ量子コヒーレンス

 量子ホール効果は、 超低温強磁場で半導体界面に理想的2次元電子状態が 実現することによって起こる特異な現象です。 その特異性は、昨年度を含め2度にわたり量子ホール効果研究者が ノーベル物理学賞を受賞したことからも判るように、 大きなインパクトを与えるものです。 私たちのグループでは、 量子ホール状態を磁束量子と電子を合わせた複合粒子のボーズ凝縮状態ではないかとの 新しい観点から研究を進めております。 超流動、超伝導もボーズ凝縮状態であり、 ボーズ凝縮は物理研究者の最も興味ある研究対象のひとつです。 私たちは、下図に示すように2層2次元電子系のν=1, 2量子ホール状態が、 2層の電子密度差を自由に変えても安定な量子ホール状態であることを明らかにしました。 この新しい量子ホール状態には、 マクロ量子コヒーレンスと呼ばれるボーズ凝縮状態特有の現象の存在が期待できます。 この研究を進め、ボーズ凝縮状態の存在を実証することが当面の課題です。 2次元電子系においてボーズ凝縮の存在を実証することは、 低次元における粒子の統計性の確立を目指す基礎物理学の観点から 強く望まれているものであり、 柔軟な思考を持った意欲的な若い人の活躍が必要です。