理学部専門科目(境界領域)3801

物質の創成と制御(令和元年度後期月曜1限 理6303)

 

物質の機能(物性)は多自由度系の協力現象の結果現われる。巨視的量子凝縮系の超流動、有機結晶、遷移金属化合物における強相関電子系、生命創成の要件を例にとり、マクロな物性がどのようなミクロな構造から発現するかという物性科学の基礎について講義する。

本講義は物理・化学・生物の各系に所属する4人の教員がリレー形式で行う。

(今年度は都合により寺嶋、矢持、佐々木、佐藤の順で担当します。)

(成績評価は講義への出席教員毎のレポートによる。)

 

1)遷移金属化合物では強い電子相関により高温超伝導、巨大磁気抵抗効果、金属-絶縁体転移など興味深い現象が発現する。このような系での物質開発とそこで起こる特異な物理現象について解説する。

(担当:寺嶋 孝仁、講義日:10/710/16(水)、10/21

§1 金属絶縁体(M―I)転移

 1.1 バンド理論概略

 1.2 モット・ハバード型絶縁体

 1.3 電荷移動型絶縁体

 1.4 フィリング制御によるM―I転移

 1.5 バンド幅制御によるM―I転移

 1.6 負の電荷移動エネルギー

 1.7 M―I転移の実例

§2 巨大磁気抵抗(CMR)効果

 2.1 ペロブスカイト型Mn酸化物の電子状態

 2.2 二重交換相互作用

 2.3 CMR効果

 2.4 ペロブスカイト型Mn酸化物におけるM―I転移

 2.5 CMR効果の素子への応用

§3 高温超伝導

 3.1 超伝導の基本的な性質

 3.2 超伝導体研究の歴史

 3.3 高温超伝導の発見と物質開発

 3.4 高温超伝導の特徴と発現機構

 3.5 クーパー対の対称性とπ接合

 3.6 高温超伝導の実演(YBa2Cu3O7バルク体を用いた磁気浮上と磁束ピニング)

 

2)二種以上の分子がひとつの結晶を作り、電荷移動錯体結晶となった場合、単一成分では見られなかった固体としての性質が現れる。有機分子の結晶構造がどの様な要因から決定されるのかに始まり、特異な物性を示す物質の例として、超伝導性を示す有機結晶の特徴等を理解するに必要な概念の紹介を行う。

(担当:矢持 秀起、講義日:10/2811/6(水)、11/11

$1 分子軌道法

 1.1 Shr_dingerの波動方程式

 1.2 スピン量子数, Pauliの禁制原理

 1.3 共有結合, LCAO

 1.4 軌道混成

 1.5 π-電子近似

 1.6 芳香属性

$2 有機結晶を作る安定化エネルギー

 2.1 静電エネルギー

 2.2 双極子-双極子相互作用

 2.3 双極子-誘起双極子相互作用

 2.4 分散力

 2.5 水素結合

 2.6 斥力相互作用

$3 電荷移動錯体

 3.1 事の起こり

 3.2 Mullikenの理論

 3.3 電子供与体と電子受容体

§4 導電性電荷移動錯体の結晶構造 <分子形状からのアプローチ>

 模擬講演会形式の講義。本来、大学院生向けの内容であるが、§13で学習した内容を踏まえ、理解可能な範囲の内容となっている。


 

3)量子力学がマクロな流体の運動をも支配する物質である超流動ヘリウムとその中に現れる量子化された渦の運動について概説する。

(担当:佐々木 豊、講義日:11/1812/212/912/1612/23)

§1 超流動ヘリウムとは

 1.1 量子力学が支配する世界  古典的世界観との対比

 1.2 ボソンとフェルミオン

 1.3 ボース・アインシュタイン凝縮と超流動性

§2 超流動ヘリウムの二流体力学

 2.1 理想流体の運動方程式

 2.2 超流動ヘリウムの二流体運動方程式

 2.3 循環

§3 量子渦

 3.1 量子化された循環

 3.2 渦輪

 3.3 細孔中の流れの散逸の量子化

§4 臨界速度を支配する機構

 4.1 一次相転移

 4.2 渦輪生成のバリア

 4.3 熱核生成

 4.4 巨視的量子トンネリングによる核生成

 

4)生命は長い時間をかけて創成され今日に至った。その基本的な特徴を解説し、生命活動の要件を考察する。

(担当:佐藤 智、講義日1/61/14(火)、1/20

§1

 1.1 地球環境と生命

 1.2 生命の3つのドメイン

 1.3 生命の特性と階層性(細胞、個体、生態)

 1.4 予知できない特性

 1.5 生命のたどってきた道:繁栄と絶滅、進化

§2

 2.1 生物学の基本原則:構造、連続性、多様性、統一性

 2.2 生物科学からみた情報

 2.3 生命の複製:DNARNA、タンパク質、生体膜