|
レーザー冷却法:その2一一偏光勾配冷却法
ドップラー冷却法よりもさらに低温を実現できる方法として偏光勾配冷却法がある。この方法では単一光子反跳限界の温度 kBT=(h/λ)2/2m 程度まで冷却可能である。23Na 原子ではこれは2μK になる。偏光勾配冷却法には大別して2種類のものがあるが、そのうちシシュフォス型といわれるものについて説明しよう。このタイプでは、双極子力が重要な役割を演じる。実験では、互いに直交した直線偏光の光を両側から原子に照射させる。光の偏光は、波長程度の位置の変化に伴い、直線偏光から円偏光に変わる(図3)。直線偏光とは、光の電場の振動方向が一定で、ある方向に直線的に振動しているものをいい、円偏光とは光の電場が光の周波数で回転しているものをいう。その回転の方向に対応して右回り円偏光と、左回り円偏光とがある。このとき、同様に原子は各位置での光遷移強度に比例したポテンシャル(双極子ポテンシャル)を感じ、図3のようなポテンシャルになる。ただしここでは、原子の基底状態には二つの状態がある場合を考えている。太線と細線がそれぞれの状態に対応している。原子が図中のA点から太線の状態で移動してきたとしよう。B 点に移動するときに原子は運動エネルギーの一部をポテンシャルエネルギーに変換する。このまま C 点に移動してしまうと、A 点にいたときとまったく変わらない。しかしながら、B 点において光を吸収および放出して、原子はその状態を太線の状態から細線の状態へと変え、D 点へと遷移する。この後 D 点から E 点へと移動し同様に運動エネルギーを失い、また C 点へと遷移する。これを繰返して原子は冷却される。ギリシャ神話のシシュフォス王が石を山の頂上まで運ぶと石を落とされ、永久に石を山の頂上まで運ぶ作業を続ける、というのに因んでこの名前がつけられた。
|
レーザー冷却法:その3一一サプリコイル冷却法
速度がゼロ付近になった原子に対してのみ光を吸収しなくなることを利用した、速度選択的コヒーレントポピュレーショントラッピング(VSCPT)と呼ばれるものがあり、これにより単一光子反跳限界の温度よりもさらに低温を実現することが可能である。また、きわめて鋭い速度選択性を利用したラマン冷却法と呼ばれるものもある。これらは、リコイル(反跳)限界よりさらに低い温度を実現できる、ということからサプリコイル冷却法と呼ばれている。