研究概要

 本研究室は、2004年4月に開設された新しい研究室です。量子ホール効果・液体ヘリウム上の2次元電子系・グラフェンにおける物性など、超低温において低次元系で起こる特異な量子現象の研究をしています。また、宇宙暗黒物質の有力候補であるアクシオンを、新しい高感度検出器を開発して観測しようと試みる学際共同研究にも取り組んでいます。

2層系量子ホール効果と巨視的量子コヒーレンス

 量子ホール効果は、超低温強磁場で半導体界面に理想的2次元電子状態が実現することによって、ホール抵抗が量子化される特異な現象である。その特異性は、2度にわたり量子ホール効果研究者がノーベル物理学賞を受賞したことからも判るように、大きなインパクトを与えるものである。我々のグループでは、量子ホール状態を磁束量子と電子を合わせた複合粒子のボーズ凝縮状態ではないかとの新しい観点から研究を進めている。超流動、超伝導もボーズ凝縮状態であり、ボーズ凝縮は物理研究者の最も興味ある研究対象のひとつである。私たちは、2層2次元電子系のν=1, 2量子ホール状態が、2層の電子密度差を自由に変えても安定な量子ホール状態であることを明らかにした。この新しい量子ホール状態には、巨視的量子コヒーレンスと呼ばれるボーズ凝縮状態特有の現象の存在が期待できる。この研究を進め、ボーズ凝縮状態の存在を実証することが当面の課題である。2次元電子系においてボーズ凝縮の存在を実証することは、低次元における粒子の統計性の確立を目指す基礎物理学の観点から強く望まれているものであり、柔軟な思考を持った意欲的な若い人の活躍が必要である。

2層系量子ホール試料のゲート電圧を掃引して現れた種々の量子ホール状態


液体ヘリウム上の2次元電子系と原子状水素の反応機構


リドベルグ原子を用いたダークマター”アクシオン”探索

 宇宙には、宇宙全エネルギーの約60%を占めるダークエネルギーと約35%程度も占める正体不明の物質が存在することが分かっており、後者はダークマター(暗黒物質)と呼ばれている。ダークマターの正体は未知の素粒子であろうと予想されているが、宇宙創世の初期に生成され、それが種となって現在のような宇宙の構造が出来上がったと考えられている。ダークマターの候補として特に有力な素粒子は、超対称性素粒子ニュートラリーノアクシオンである。
 素粒子アクシオンは本来、強い相互作用をする素粒子の世界では時間反転対称性が良く成り立っていることを説明するために提唱された粒子であり、その存在が確認されれば、素粒子物理における最重要な問題の一つが解決されることになるという大きな意義を持っている。アクシオンは、素粒子というミクロな世界と、マクロな宇宙に深く関連する最重要な素粒子の一つであると言える。
 アクシオンは強磁場中でマイクロ波光子に転換されるので、強磁場中においた共振空胴内で転換により発生した光子を検出することで、間接的にアクシオンの検出が出来る。本研究では、マイクロ波光子を高感度に検出する方法として、高励起リドベルグ原子に光子を吸収させ、光子吸収により上位の準位に励起されたリドベルグ原子を選択的に検出を行う。リドベルグ原子を用いる方法は、単一光子計数法に該当しており、量子限界に縛られない検出が出来る。従って、空胴の温度を極低温に下げて雑音を減らすことにより、感度の高い光子検出が可能である。京都グループがこの独自の方法を開発し、京都大学化学研究所において、探索実験を行ってきたが、この度、低温物質科学研究センターに移設されることになった。

ダークマターと宇宙の進化・組成(左側の宇宙進化の図は佐藤勝彦氏による図)

本研究の詳細については、new-carrack group ホームページをご参照下さい。